2021-09-05

【読んでみた】資源争奪の世界史 スパイス、石油、サーキュラーエコノミー




最近読んだ「資源争奪の世界史 スパイス、石油、サーキュラーエコノミー」(平沼 光 (著))という本が面白かったので簡単に紹介してみました。



この本は世界のそれぞれの場面で経済発展の源泉となった戦略物資としての資源の変遷の歴史を解説し、後半で現代社会において現れた新しい「資源」の存在と、これからの日本と新しい「資源」との関係について解説しています。ちなみに、各章の内容の概要はこんな感じです。

第1章 スパイス戦争:資源争奪の大航海時代
ここでは、本書における「資源」の定義を説明するために、香辛料の歴史について書かれています。
例えば、バスコ・ダ・ガマが発見したインド航路がイスラム商人のスパイス利権を打破した結果、スパイス貿易の中継地として栄えていたアラビア、ペルシア、ベネツィアは衰退しました。
そして、スパイスの供給過多や価格の暴落などを防ぎ、利益を最大化するため、船主や貿易会社をとりまとめて一元化したオランダ東インド会社が覇権を握りました。
このように資源の流れの変化は各国のパワーバランスを変化させることがわかります。

第2章 近代化の扉を開けた石炭
この章では世界史における石炭の関係が書かれています。
製鉄に必要な木炭の生産のためにヨーロッパは森林資源の枯渇に苦しむ中、石炭が登場しました。石炭は当初その硫黄分が鉄に悪影響を与えて不人気でしたが、18世紀に硫黄分の低いコークスを用いる技術革新が進み需要が高まりました。石炭採掘に際して湧き出す地下水を組みだす動力としてトーマス・ニューコメンが蒸気機関を開発したのが1712年で、やがて蒸気機関は紡績工場に応用されるようになりました。
日本では塩田方式の製塩に薪が使われましたが、ヨーロッパ同様に森林の伐採が進みすぎて薪が枯渇し、18世紀後半には木炭に代わって石炭採掘が盛んになりました。この日本の石炭資源に目を付けたのがアメリカで、ペリー提督はアジア航路の蒸気船に石炭燃料を補給できる拠点とするべく、日本に開国を迫りやがて明治維新につながりました。

第3章 資源獲得競争を加速させた石油、天然ガス
本章では石油や天然ガスと世界史の関わりについて書かれています。
例えば、ナチスドイツはバクー油田や北コーカサスの油田を狙って1941年にソ連に侵攻したように、石油は当時の戦略物資として重要視されました。
その後、資源輸入国であったアメリカは、近代になって自国内のシェールガスの生産体制を固められたので、海外からのLNGの輸入を大幅に縮小しました。また当初、アメリカのシェールガスを輸送する船は大型であり、国外に輸出する際にパナマ運河を航行できないことがネックとなっていましたが、2016年に運河の拡張工事が終了し、現在は大型船の航行が可能となったことで輸出が進み、アメリカ行きのLNGが行き場を失いました。
そのため、だぶついたカタール産のLNGが欧州市場に安値でなだれ込むようになり、欧州にLNGを供給してきたロシアのガス業界が打撃を受けました。

第4章 気候変動時代の資源エネルギー
この章では気候変動問題をめぐる様々な論点を取り上げています。
1997年の京都議定書、2015年のパリ協定など二酸化炭素はじめ温室効果ガスの排出削減に関する国際的な議論の経過が時系列で紹介されています。同時に、再生可能エネルギーの推進を活発化させ発電コストを下げる事例や、各国の取り組み状況についても触れています。

第5章 エネルギー転換が生み出すエネルギーの新潮流
この章では世界的に「脱石油」が進む様子が書かれています。
各国の投資銀行や年金基金は脱石炭を目指して石炭関連への投資を撤退させ始めており、またロックフェラー家のファンドは石油関連の株式を2016年に売却して、CO2排出削減を後押ししています。
コロナ禍で経済活動が停滞したこともあり、近年の石油需要は大幅に下落しています。原油の生産者やトレーダーは金を払って引き取り手を探す、マイナス価格の事態が発生しています。
また、これまで自動車はエネルギーを消費するものとされてきましたが、最近の電気自動車はその蓄電機能を生かして、電力需給をコントロールするエネルギーシステムの一部と化していることも書かれています。

第6章 廃棄物が資源の主役となる未来
この章では、廃棄物が資源問題解決の鍵となる可能性について書かれています。
近年の省エネ・高効率危機の急激な普及拡大は、レアアースなどの鉱物資源の需給逼迫化を招くリスクを持っており、例えばEVの車載用蓄電池の電極材としてコバルトは欠かせないですが、EVの普及がコバルトの需給の不安定化に大きく影響してきます。
一方で、こうしたレアメタルは、大量の電化製品の廃棄物から回収することが可能で、そうなるとこれまで資源を輸入して消費してきた国が一転して都市鉱山を持つ資源国となる可能性が示唆されています。

終章 日本が資源エネルギー争奪で生き残るために
この章ではこれからの時代に日本が資源獲得競争に勝ち残る方法について考えています。
これまで日本は長年資源の輸入国でしたが、近年の再生可能エネルギーや都市鉱山の利用で資源の輸出国となるチャンスがあると書かれています。

おわりに:資源エネルギー政策は日本が世界をリードするものに
本章ではここまでのまとめとして、資源に乏しくその多くを輸入に頼らざるを得ない日本が今後、IoEやサーキュラーエコノミーといった次世代の技術や経済モデルを活用し、脱炭素の取り組みで先行するためには何が必要なのかというテーマに対し、筆者の提案が述べられています。

<感想>
この本の全体的な感想として、タイトルから過去の歴史上の化石燃料だけが対象かと思っていたら、「資源」の概念を柔軟にとらえて、サーキュラーエコノミー化する現代社会における日本の新しい資源大国としての可能性についても述べられており、視野が広がる1冊でした。脱石油や循環型社会の取り組みもなんとなく知っていましたが、この本では全体的な流れが把握できて、改めて最近の傾向を復習できました。


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